「学校法人武蔵野東学園の歴史と近況」(2023/11/9)
武蔵野東学園学園長 清水信一さん(紹介 伊藤会員)
武蔵野東学園は、「心と体の健やかな子どもを育てたい」という親の願いをこめて設立された武蔵野東幼稚園〔1964年(昭和39年)・東京都武蔵野市〕からスタートした学園である。開園時に志願者の中にいた自閉症児を受け入れたことがきっかけで、健常児と自閉症児が分け隔てなく共に学ぶ体制『混合教育』と、自閉症児への愛と根気による独自の教育『生活療法』 ( Daily Life Therapy ® ) が始まった。
教育困難といわれていた自閉症児に教育の成果が表れるにつれて、全国から入園希望が殺到した。その後、卒園後の就学先で再び状態が悪くなってしまう子どもがいたこともあり、「武蔵野東幼稚園と同じ教育方針の小学校を設立してほしい」という強い願いが親たちから出てきた。この願いが創立者や教師の思いと一体となり、当時文部大臣をされていた奥野誠亮先生の温かいご支援も受け、武蔵野東小学校〔1977年(昭和52年)・武蔵野市〕を設立、同様の事情から6年後に武蔵野東中学校〔1983年(昭和58年)・小金井市〕を、さらに3年後には自閉症児の社会的自立のための職業教育の場として武蔵野東技能高等専修学校*〔1986年(昭和61年)・武蔵野市〕を設立した。(*2014.4.1 武蔵野東高等専修学校に校名変更)
学園の創立者は北原勝平と北原キヨである。学園の教育のすべてを創出し構築した北原キヨは、教育に身を捧げ尽くして1989年(平成元年)1月14日急逝(63才)、1995年(平成7年)4月16日には北原勝平が逝去した。遺業を受け継いだ教職員は、北原キヨが作り上げた『混合教育』と『生活療法』をさらに発展させるべく、日々実践と研究に取り組み現在に至っている。
【 教育の特色 】
学園の最大の特色は、健常児と自閉症児が共に学ぶ『混合教育』と、自閉症児の自立を促進する『生活療法』であり、自閉症児と健常児の双方にみられる教育成果の大きさにある。学園の教育に関心を持ち、見学・参観に訪れる人は、自閉症児の保護者のみならず、教師、研究者、さらには教育・福祉を学ぶ学生など、多岐に亘る。見学・参観者を併せ毎年700~800名の訪問を受けている。
学園の教育成果の一端を挙げると次の通りである。
○ 2022年度までに高等専修学校を卒業した自閉症児は1249名、その内企業等への一般就労は689名(55%)、作業所等への福祉就労は439名(35%)、大学・短大・専門学校等への進学者は111名(9%)。
教育は困難といわれている自閉症児であるが、幼児期の身辺自立から始まり生活自立、さらに社会自立にむけ一貫教育の成果は、上記の数値からみて世界に類がない。2006年1月竣工の北原記念館に、インターンシップの場としての「チャレンジショップ」とショートステイのできる「友愛寮(卒業生のグループホーム)」を、2015年4月には在校生の宿泊施設である南アルプスチロル学園、卒業生のグループホームの山梨友愛寮を開設し、3歳から親亡き後までの体制がより整備された。
○ 自閉症児とたえず接している健常児は、障害のある友だちに対しての接し方や心構え(「生きた福祉の心」)を自然に身につけるだけでなく、自閉症児の努力する姿に刺激されて、自己の可能性に挑戦する気構えが育っている。中学生に例をとれば、学習と部活動を両立させつつ、難関校といわれる国・公立・私立高校に多くの者が合格し全員が上級学校への進学を果たしている。また部活動でも大きな成果を出し、身体面・学習面の双方で教育の成果が社会からも認められるところとなって いる。