「民法改正あれこれ」(2020-1-23)
小林 清会長
【2019年1月13日から適用されているもの】
ア 自筆証書遺言の方式緩和
自筆でない財産目録を添付して自筆証書遺言を作成することができることになりました。これまで、自筆証書遺言は、①すべて手書き②署名押印すること③日付を記入することでしたが、①の「すべて手書き」が財産目録については、「ワープロで打った書類」、「土地や建物の登記事項証明書」、「預金通帳の写し」でもよいことになりました。ただし、作成した財産目録の各頁に署名押印することが必要です。
【2019年7月1日から適用されているもの】
イ 長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等を保護するための規定
婚姻期間が20年以上である配偶者の一方が他方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については、原則として、計算上遺産の先渡し(特別受益)を受けたものとして取り扱わなくてよいことになりました。今までは、配偶者が贈与等を行っても、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱うため、配偶者が最終的に取得する財産額は、結果的には贈与等がなかった場合と同じになってしまっていましたが、これからは、配偶者が遺産分割の際に取得する財産額には、居住用不動産の取得は何らの悪影響を及ぼさないことになります。これにより、配偶者は、より多くの財産を取得することができます。
ウ 相続された預貯金債権の払戻しを認める制度
相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金手当てができるよう、各相続人は、遺産分割が終了するまでの間、一定額については、家庭裁判所の判断を経なくても、単独で金融機関から払戻しを受けることができるようになりました。 一定額とは、(相続開始時の預貯金債権の額(口座基準))×1/3×(当該払戻しを行う相続人の法定相続分)であり、これが単独で払戻しをすることができる額となります。例えば、A銀行の預金600万円、相続人は長男と次男の二人とすると、長男も次男もそれぞれ100万円ずつ払い戻しができることになります。なお、高額の資金手当てが必要な場合は、家庭裁判所の判断を経て仮払いをしてもらう手段もあります。
エ 遺留分制度の見直し
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図るなどの観点から、最低限の取り分を確保する制度です。
今回の改正により、その取り分(遺留分)を侵害された者(遺留分権利者)は、被相続人から遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるようになりました。一方、遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができるようになっています。
オ 相続人以外の者の貢献を考慮するための特別の寄与の制度
相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができるようになりました(特別の寄与)。これまでは、例えば、亡長男の妻がどんなに義母の介護に尽くしても、相続人ではないため、義母の死亡に際し、相続財産が分配されることはありませんでした。しかし、これからは、上記のように亡き長男の妻が義母の介護等の貢献をしていた場合には、義母の相続開始後に相続人(長女・次男等)に対して、金銭の請求が認められることになります。
【2020年4月1日から適用されるもの】
カ 配偶者短期居住権
配偶者は、相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた場合には、①配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定するまでの間(ただし、最低6か月は保障)、又は、②居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、居住建物の新たに所有者となった者から消滅請求を受けてから6か月の期間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)が認められました。したがって、相続発生後直ちに建物を明渡す必要はなくなりました。
キ 配偶者居住権
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、遺産分割において、配偶者が終身又は一定期間その使用を認める法定の権利(配偶者居住権)を取得(創設)することにより、その建物に無償で居住することができるようになりました。被相続人が遺言等によっても配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。ただし、配偶者居住権がいくらになるのかの価値評価が必要となり、この評価額は配偶者の取得額に当然算入されることが前提とされています。これまでは、配偶者が特に高額な居住用の不動産を取得する場合には、他の財産が受け取れなくなってしまうこともありましたが、配偶者居住権を認めることで自宅に住み続けながら、さらに預貯金等の財産も取得できるようになり、生活費の心配もなくなります。
【2020年7月10日から適用されるもの】
ク 法務局における自筆証書遺言の保管制度
自筆証書を作成した方は、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)に遺言書の保管を申請することができます。 また、遺言者の死亡後に、相続人や受遺者らは、全国にある遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうかを調べること、遺言書の写しの交付を請求すること、遺言書を閲覧することができます。なお、遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認が不要となります。